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ポルトガル語の発音の解説

日本語のカナと同様
アルファベットもまた
もともとは発音記号だったわけで。

英語のせいで
スペルと発音は別
というイメージがついてしまったわけですが
英語以外はそこまで発音と離れているわけでもなく。

ポルトガル語はアルファベットの中でも
もっとも精緻な発音体系を構築しようとした言語。
それであるがゆえに
難解な言語ともいえるわけです。
ルールが煩雑すぎて。
でも、ルールさえ覚えれば正しく発音ができます。

âは強勢部の[ɐ]【ァ】。非強勢部はすべて[ɐ]。[ɐ]は強勢部において鼻音の前に現れる。
áは強勢部の[a]【ア】。強勢部においてアクセント符号のないaはすべて[a]。
êは強勢部の[e]【ェ】。非強勢部はすべて[e]。
éは強勢部の[ɛ]【エ】。強勢部においてアクセント符号のないeはすべて[ɛ]。
ôは強勢部の[o]【ォ】。非強勢部はすべて[o]。
óは強勢部の[ɔ]【オ】。強勢部においてアクセント符号のないoはすべて[ɔ]。
uは強勢部では[u]、非強勢部では[ʊ]。
iは強勢部では[i]、非強勢部では[ɪ]。

どんな現象でも基本となる土台があります。
上記のルールは凄くややこしく見えるのですが、
読み解くと
とてもシンプルなことしか言っていないことが分かってくるのです。
かつてポルトガルの皆様がどのように発音を豊かにしようとしたかに
想いを馳せながら見ていきましょう。

ポルトガル語の母音(アルファベット)

ポルトガル語の母音は上記の通り。
日本語と同じイエアオウ。
英語のような【ェア】も【ォア】もない。
そこは大変ほっとします。

ただですね。
ポルトガル語は英語と同じ強弱アクセント言語なのですよ。
それだけなら、そうなのね、で終わる話なのですが。
アクセントのある母音とアクセントのない母音、
音そのものが違くね
ということに気がついてしまったのです。
そこに気がついてしまったか。。

ポルトガル語の母音(IPA発音記号)

アクセントのある母音はアゴが開く明朗な母音だよね。
アクセントのない母音はアゴが閉じるくぐもった母音だよね。
エ・ア・オに関しては。
逆に
イとウは、
アクセントのあるときは振り切って口が閉じるけど
アクセントのないときは口が緩んで半開きだよね、と。
つまり、
口の中の舌がぼんやり中央に寄っているときがアクセントのない母音で、
口の中の舌がはっきり端へとエッジが立っているときがアクセントのある母音。
口の中の舌がぼんやり中央に寄っているときって
英語だったらシュワーじゃねえか、[ ə ]って全部同じ音扱いだぞ。
そのような英語で非道い扱いに対し、
ポルトガル語は違いの分かる方なのです。
解像度が高い。
分かっている。分かっていらっしゃる。

ポルトガル語の母音(呵名発音記号)

ただですね。
ポルトガル語はあることに気がついてしまったのです。
アクセントのない中央寄りのぼんやり母音そのものを
強くアクセントありで言ったら
新しい母音を生み出すことができるんじゃね?
と。
それ気がついちゃったか。。

ポルトガル語の母音(符号付アルファベット)

単語のスペルとしても区別つくようにしました。
狭い母音で
もともと弱勢だったはずなのに
強勢のあることにした[e]【ェ】は ê に、
強勢のあることにした[ɐ]【ァ】は â に、
強勢のあることにした[o]【ォ】は ô に。
この ^ という符号を専門用語でサーカムフレックスと言います。
(^〇^)という顔文字でおなじみですね。

もとから強勢だった
広い母音
強勢の[ɛ]【エ】は é に、
強勢の[a]【ア】は á に、
強勢の[ɔ]【オ】は ó に。
この ´ という符号を専門用語でアキュートアクセントと言います。
(`・ω・´)という顔文字でおなじみです。

この ´ という符号には
揚音符号という呼び方もあります。右肩上がりで揚げ揚げです。
もともと強勢だった母音にふさわしい符号。
それに対し
この ^ という符号は揚げ切ってないことを表しています。
符号としては結局下がってますよね。
強くない口の形のまま音だけ強くするという
屈折した思いが形状に現れています。

すべての単語のスペルで
ê â ô
é á ó
が使われていたらどれだけよかったか。
ポルトガル語では通常は後ろから2番目の母音にアクセントがくるので
あたりまえのときは
e a o
のまんまでいいよね、と。
いや、外国人にとってはよくない。。
よかれと思って省略することが
部外者にとってどれほど残酷なことか。。

で。
上記のような母音だけで済む話ならいいんですよ。
ポルトガル語には
ãとõのような
この ˜ という符号、
専門用語でチルダという符号のついたアルファベットがありましてね。
これが何を意味するのか説明しましょう。
もう許して。。

(˜▽˜)

歌を意味する
canção
歌々と複数形になると
canções
となる
という定番の接尾辞があるのですな。
というか
ç
という見慣れないアルファベットがあるのですけど。
その子は
s
と同じくサ行を表す子音だ。
うろたえるな。

ここで登場する
ção
ções

ãとõなのですが。
上についている ˜ って、Nの略形なのです。
˜ とN、よく見ると同じ形をしているでしょ。
ですので
ãはanという音、
õはonという音。

さらに言えば
ção
ções
は二重母音なので
Nはその後ろに付きます。
aon
oen
よって
çaon
çoens
でもって
çはsの音なので
saon
soens
もっと言えば
しょっちゅう使うので
音がだいぶ崩れて
saun
soins
と実際にはなっています。

日本語だって
動いてしまう
がくだけて
動いちまう
動いちゃう
と変化するじゃないですか。
それと同じです。

なお、チルダのつく母音は必ず真ん中よりのシュワー的な母音です。
強勢がつくけど。

先ほど登場させた単語
歌のcanção
歌々のcanções
だとこうなります。

canção
カンサウン
[ kɐɴsɐʊɴ ]

canções
カンソイン
[ kɐɴsoɪɴs ]

これだけのことを考えなければならないのです。
現地で住んでいれば慣れることもできるけど
アルファベットのスペルだけ見て正確に判断することは
国外の人には無理だ。
だからIPAや呵名のような
発音記号が必要なのです。
いちいち考えなくて済むから
目で追って読むだけで済むから
便利。

さて
ここで実際に
Forvoで実際の音を聞いてみましょう。
https://ja.forvo.com/word/can%C3%A7%C3%A3o/#pt
https://ja.forvo.com/word/can%C3%A7%C3%B5es/#pt

ね。
呵名発音の通りに言っているでしょ。

ただし。
さらに気を付けなければいけないことがあるのです。
Forvoでcançãoを何度もじっくり聞いてください。

カンサウンの最後のンの音が
ほとんど聞き取れないことが分かるでしょうか。
人によってはまったく言っていない。
これって
言わなくていいという意味ではないのです。
実は
母音そのものにンが同化している。

ここで母音に立ち戻りましょう。
ãとõ。
母音の上にNの記号がありますよね。
ということは
母音と同時にNを発音しているとも取れるわけです。
なんて余計な事してくれたんだ。。

母音と同時にNを発音するなんて
そんな無茶なことできるの?
できます。
人類に不可能なことなどないのです。
実際に現地の人が発音してるし。

あらためて
呵名発音記号の下の行のIPA発音記号を見てみましょう。
【ン】に該当するのは[ ɴ ]です。
[ n ]ではないのです。
このことは
英語のような


ではないのです。舌が歯茎につかない。
t、d、nの系列の歯茎音ではないのです。
ポルトガルのンは日本語と同じ
舌が口の中のどこにもつかない音。

ということは、
ポルトガル語のンは
日本語のンと同様
本質的には母音なのです。

そうなのです。
子音じゃないです。口の中をどこも塞がないし。
母音です。

日本語において
5つの異なる母音を習慣的に同じ音と認識してきました。
アンと言うとき、アの口の広さのままでンを言えますよね。
インと言うとき、イの口の広さのままでンを言えますよね。
ウンと言うとき、ウの口の広さのままでンを言えますよね。
エンと言うとき、エの口の広さのままでンを言えますよね。
オンと言うとき、オの口の広さのままでンを言えますよね。
この5つのン、全部別の音なのです。

この現象に気づいたのは
映画『ちはやふる』を観てからなんだよな。
競技かるたの際、
音になる前の音に気付くことが「感じがいい」。
まさにこの現象が該当するんだよな。
ンという表記の元
日本語において区別されてこなかった
言語化されていない5つの音。。

この5つのン、IPAだと表記できます。
アンは[ aã ]、[ aɴ ]と同じ音です。
インは[ iĩ ]、[ iɴ ]と同じ音です。
ウンは[ uũ ]、[ uɴ ]と同じ音です。
エンは[ eẽ ]、[ eɴ ]と同じ音です。
オンは[ oõ ]、[ oɴ ]と同じ音です。

転じて
[ ã ]はこれだけでアンとも読めますし、アンのンの部分とも言えます。
[ ĩ ]はこれだけでインとも読めますし、インのンの部分とも言えます。
[ ũ ]はこれだけでウンとも読めますし、ウンのンの部分とも言えます。
[ ẽ ]はこれだけでエンとも読めますし、エンのンの部分とも言えます。
[ õ ]はこれだけでオンとも読めますし、オンのンの部分とも言えます。

日本人が言う分には
カンサウン
とンを付けて言えばそれで通じるんです。
ただ、リスニング、ポルトガル人やブラジル人の言葉を聞き取る際には
この知識が必要。
ンを必ず付けてくれるとは限らないから。

もっとも
[ ɴ ]の手前の母音は一律で
必ず真ん中よりのシュワー的な母音になるので
その特徴で区別つけることができる気もするのですが。
ポルトガル語では必ず
[ɪɴ]イン
[eɴ]エン
[ɐɴ]アン
[oɴ]オン
[ʊɴ]ウン
となります。
口を大きく広げる母音がンの手前に来ることはありません。
[iɴ]
[ɛɴ]
[aɴ]
[ɔɴ]
[uɴ]
とはポルトガル語ではならないのです。

よければ
[ ɴ ]の手前の母音を鼻に抜いて出してみてください。
息を鼻に抜く母音が鼻音。
ンがなぜンと聞こえるのかと言うと
鼻音だから。
なれてくると
ンがなくても
アイウエオを鼻音化できます。
これであなたもポルトガル人だ!

そこまでできて
ようやくポルトガル人と同じ発音になるのです。

[ ɴ ]のすぐ手前にある母音は全て鼻に抜く鼻音になります。
IPA発音記号で[ ɴ ]となっていれば、すべて該当します。
ãとõだけではなく、
単語中にnが現れて直後が子音だった場合も
[ ɴ ]の音にすべてなることになっていますが、
その場合はそこまで意識せず、
結果として鼻音になっているだけだよとも言われています。
単語中にnが現れて直後が母音なら、ただのナ行ですので、
その場合はさすがに直前の母音を鼻音にしなくちゃとも思っていません。
鼻音化するのを禁止しているほどではないのですけど。
これってどうなの、とあいまいな場合は、あいまいなまま、
個人の判断にゆだねられています。。

ポルトガル人になるにしても
ブラジル人になるにしても
ポルトガル語って大変だから
他の言語よりも2年多く
呵名発音化の解析に時間がかかっているのですよ。。

このンを使わない母音の鼻音、
フランス語でも登場するから覚えておいてね。。

そうそう。
冒頭で語っていた
強勢部の[ɐ]【ァ】である â 。
強勢部の[a]【ア】である á 。
強勢部の[e]【ェ】である ê 。
強勢部の[ɛ]【エ】である é 。
強勢部の[o]【ォ】である ô 。
強勢部の[ɔ]【オ】である ó 。
これらもForvoで実際の音を聞いてみましょうかね。

avô(おばあさん)
ヴオ
[ ɐvo ]
https://ja.forvo.com/word/av%C3%B4/#pt

avó(おじいさん)

[ ɐ ]
https://ja.forvo.com/word/av%C3%B3/#pt

ね。
違いが全然わからない。
まったく同じに聞こえるんだけど。
現地の皆様は違う音に聞こえるみたいよ。
裏をとって確認したので。。
聞き分けることのできない私たちは文脈依存からスタートしましょうね。
話す分には呵名の通りに読めばいいから。
すっごく時間をかけてポルトガル語の呵名を作ったかいはあったのだ。
自分の残りの人生あとどれぐらいかな。。