エッセイ:道案内をたとえに英会話との向き合い方。

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問題は
何を言いたいか。
そのフレーズが思い浮かばない。
そういうことですよね。

言いたい英会話が思い浮かばないとは
言いたい日本語が浮かばないということ。

英会話の本は山ほど種類があります。
でも
どの本を見ても
興味がいまいちそそられなくて
飽きてやめてしまう。
英会話本あるあるです。
順番が逆なのです。
まず日本語で言いたいことを考える。
自分はどんなことを外国の人としゃべりたいのか、じっくり考える。
これもまた、自分との対話。
思いついて、言いたいフレーズをいろいろ思いついて
初めて
そのジャンルが載っていそうな英会話本を買うのです。
そのまんま覚えるのではありません。
キーフレーズだけ、キーフレーズだけ置き換えるのです。

●《バス停から目的地まで》

南木曽駅行きのバス停はそこです。
バス停/南木曽駅への/そこにある/
The bus stop for Nagiso station is there.
ずア ふオ~ア テイシオンヌ ~ア
[ ðə s sp fəɚ steɪʃən ɪz ðeɚ ]

これなどは定番です。
ナギソ・ステーションのところだけを
自分の近所のバス停の目的地にすり替えるのです。
すり替えるのを恐れてはいけません。
そのための
google翻訳であり
コトバイウではないですか。

『google翻訳』
『コトバイウ』

さあ、
あなたの住んでいる町に
外国の方が迷い込んでしまいました。
ここに行きたいんだけど、どう行けばいいですか。
近所のバス停を思い浮かべてください。
その近所のバス停から行ける場所はどこですか。
外国の人が行きたい目的地までバスで行けなくても
どこへでもアクセス可能な鉄道の駅なら通るでしょう。
乗り換えの勧めです。

中津川には、南木曽駅行きのバスに乗り、中津川行きの鉄道に乗り換えます。
バスに乗って/南木曽駅への/
Take the bus to Nagiso Station
テイ ずア トウ テイシオンヌ
[ teɪk ðə s steɪʃən ]
そして/鉄道に乗り変えて/中津川への/
and change to the train to Nakatsugawa.
ンド エインヂ トウ ずア レインヌ トウ ウワ
[ ənd tʃeɪndʒ ðə treɪn tsʊ ]

ナギソ・ステーションと
ナカツガワ
をあなたの場合の地名に置き換えるだけです。
お気づきですか。
The bus stop for Nagiso station is there.
Take the bus to Nagiso Station and change to the train to Nakatsugawa.
目的地への前置詞は
toでもforでもどっちでもいいんです。
toでもforでもどっちでも通じます。
inやonやatでないことは直感的に分かるでしょう。
迷わないでください。
toとforの違いなんて大したことではありません。
乗り換えで言わなければいけない重要な単語は
changeだけです。
ね。知ってる単語でしょ。

妻籠から高山へ行きたいが、どう行けば良いですか?
どう/私は着きますか/高山へ妻籠から/
How do I get to Takayama from Tsumago?
ハウ アイ トウ ウロ
[ haʊ get fm tsə ]

せっかくですから
外国の方からどう英語で聞かれるのかのフレーズも知っておきましょう。
ちなみに
長野県の妻籠から岐阜県の高山に行くためには
鉄道だと名古屋を経由しないといけません。
車だと真っ直ぐ下呂経由で行けるんですけどね。

結局のところ
英会話とは
想像力です。

外国の方が来る。
逃げることはできない。
その場合
いやおうなく
英語の能力は上がります。
なぜって
これ、英語で言えたら良かったのにな
って
言いたかった日本語を覚えているから。

例えば。
トイレに行きたいけど
トイレが見つからない。
慌ててうちのお店に駆け込んでくる外国の方。
せっぱつまってますよね。
公衆トイレのところまで
ついて行ってあげたいけど
お店を空けるわけにもいかない。
英語で案内するしかないんです。

●《公衆トイレの場所を教える》

うちの一件おいての左隣はトイレです。
お手洗いは/2番目の建物にある/
The restroom is in the second building
ずア ルー ンヌ ずア ンド ンぐ
[ ðə restruːm ɪz ɪn ðə send lŋ ]
あなたの左の/
on your left.
ンヌ ~ア
[ ɑn jʊɚ left ]

この建物の反対側にトイレがあります。
お手洗いは/位置している/
The restroom is located
ずア ルー オウケイ
[ ðə restruːm ɪz loʊkeɪd ]
建物の反対側に/
on the opposite side of the building.
ンヌイー サイ ずア ンぐ
[ ɑn ðiː ɑt saɪd əv ðə lŋ ]

トイレはあの建物の向こうです。
お手洗いは/位置している/
The restroom is located
ずア ルー オウケイ
[ ðə restruːm ɪz loʊkeɪd ]
2番目の建物の前に/
in front of the second building.
ンヌ ウラント ずア ンド ンぐ
[ ɪn fnt əv ðə send lŋ ]

そうそうそうそう。
英語ではトイレットと言ってはダメですよ。
英語圏でトイレットは便器という意味です。
日本語で「便器はどこですか?」とは聞かないでしょう。
それと一緒です。
英語では
お手洗いに該当する言葉はレストルームなんです。
日本語では
お手洗いに該当する言葉はトイレなので
混乱しますけどね。

最後に。
道に迷ったお客さんに
電話で事務所のあるこの場所まで誘導する。
実は
英会話の中でも最難関です。
電話での誘導。
事務経験のある方ならお分かりでしょうが、
日本語だとしても最難関です。
Googleマップ、便利ですよね。
カーナビ、便利ですよね。
どちらも持っていない人ってたくさんいるんです。
持っていても、
バッテリーが切れちゃったり、
車を降りてから道に迷ったり。
地図を持っていないお客さんにとってとっかかりは
ビルの色とか看板だけ。
どの会社でも
長年培ってきた道案内誘導マニュアルがあると思うのですが、
その英語バーションを作ってみると
めちゃくちゃ難易度が高いので
完成したあかつきには達成感がありますよ。
副産物として
元の日本語のマニュアルが
さらに丁寧に分かりやすいものになります。
英語って、主語や目的語が厳密ですものね。
やった人だけの特典です。
その英語道案内誘導マニュアルはどの英会話本にも載っていません。
自分で考えて英語の文を作る。
そういう時代に突入したのです。

私が作った
最も難易度の高かった案内説明および案内図を最後に掲載して終わりとします。
ただ、
道案内の基本は

●《地図があればどんな目的地でも使える汎用フレーズ》

私たちはここにいます、そして、それはそこにあります。
私たちはここにいる/そして/それはそこにある/
We are here, and it’s there.
イー ~ア ~ア ンド ~ア
[ wiː ɑɚ hɪɚ ənd ɪts ðeɚ ]

ですからね。
地図さえ手元にあれば、
どんな場所であれ、
地図で指をさしながら、
このフレーズ1つで済みます。

●《英語地図が必要な場合》

(1)妻籠の地図パンフレットを渡せる場合(桝形という観光名称が使える)

民宿の下嵯峨屋さんに行くためには、桝形をおりて道なりに進みます。
民宿下嵯峨屋に行くためには/
To get to the Shimosagaya Inn,
トウ トウ ずア ンヌ
[ get ðə ʃɪ ɪn ]

枡形の坂に沿って降りていき/
go down along Masugata slope,
ゴウ ダウンヌ オーンぐ オウ
[ goʊ daʊn əlɔːŋ sloʊp ]

石階段の手前で右に曲がって下さい。
それから石の階段のちょうど前で右に曲がって/
then turn right just before the stone steps.
ンヌ タ~アンヌ ライ ヂア ~ア ずア トウンヌ
[ ðen təɚn raɪt dʒʌst fɔɚ ðə stoʊn steps ]

下嵯峨屋の古小屋の後ろのその民宿に着くでしょう。
あなたはだろう/下嵯峨屋の古小屋の後ろの民宿に到着する/
You’ll get to the Inn behind the Shimosagaya old hut.
ユー トウ イー ンヌ ハインド ずア オウ
[ juːl get ðiː ɪn haɪnd ðə ʃɪ ld t ]

(2)妻籠の地図パンフレットを渡せない場合(桝形という観光名称が使えない)

ここを出て、左に曲がり、
外へ行って左に曲がって/
Go out and turn left.
ゴウ アウ ンド タ~アンヌ
[ goʊ t ənd təɚn left ]

すぐ右に曲がる。
最初の右で曲がって/
Take the first right
テイ ずア ふア~ア ライ
[ teɪk ðə fəɚst raɪt ]

そのまま中山道の坂を行くと、
そして右の坂を下りて行く/
and go down the slope on the right
ンド ゴウ ダウンヌ ずア オウ ンヌ ずア ライ
[ ənd goʊ daʊn ðə sloʊp ɑn ðə raɪt ]

階段の手前に、
石段の前まで/
before the stone stairway.
~ア ずア トウンヌ ~アエイ
[ fɔɚ ðə stoʊn steɚweɪ ]

「下嵯峨屋」の看板があるので、
「下嵯峨屋」と書いた看板があります/
There is a sign that says “Shimosagaya.”
~ア サインヌ ずエ
[ ðeɚ ɪz ə saɪn ðæt sez ʃɪ ]

右の狭い路地へ曲がります。
狭い横道を右に曲がって/
Turn right into the narrow alley
タ~アンヌ ライ ントウー ずア ロウ イー
[ təɚn raɪt ɪntuː ðə roʊ æliː ]

階段の手前の看板の右のところで。
看板の右へ/
to the right of the sign.
トウ ずア ライ ずア サインヌ
[ ðə raɪt əv ðə saɪn ]

下嵯峨屋は、
下嵯峨屋民宿は/
The Shimosagaya inn
ずア ンヌ
[ ðə ʃɪ ɪn ]

昔の下嵯峨屋の奥の左側に宿の入り口があります。
古い下嵯峨屋小屋の後ろの左にあります/
is on the left behind the old Shimosagaya hut.
ンヌ ずア ハインド イー オウ
[ ɪz ɑn ðə left haɪnd ðiː ld ʃɪ t ]

(3)案内所で下嵯峨屋専用の地図パンフレットを渡せる場合

どうぞこの地図に従って下さい/
Please follow this map.
イー ふオオウ
[ pliːz loʊ ðɪs p ]

下嵯峨屋民宿への地図/
Map to the Shimosagaya Inn
トウ ずア ンヌ
[ p ðə ʃɪ ɪn ]

観光案内所/
Information Center
ンふア~アメイシオンヌ ンタ~ア
[ ɪnfəɚmeɪʃən sentəɚ ]

外へ行って坂を下りて行って/
Go out and go down the slope.
ゴウ アウ ンド ゴウ ダウンヌ ずア オウ
[ goʊ t ənd goʊ daʊn ðə sloʊp ]
狭い横道を右に曲がって/
Turn right into the narrow alley.
タ~アンヌ ライ ントウー ずア ロウ イー
[ təɚn raɪt ɪntuː ðə roʊ æliː ]
それは古い小屋の後ろの左側にあります/
It’s on the left behind the old hut.
ンヌ ずア ハインド イー オウ
[ ɪts ɑn ðə left haɪnd ðiː ld t ]

古い下嵯峨屋小屋/
The old Shimosagaya Hut
イー オウ
[ ðiː ld ʃɪ t ]

民宿下嵯峨屋/
The Shimosagaya Inn
ずア ンヌ
[ ðə ʃɪ ɪn ]

石段を上って行かないで/
Don’t go up the stone stairs.
ドウント ゴウ ずア トウンヌ ~ア
[ doʊnt goʊ ʌp ðə stoʊn steɚz ]

ここは最難関の道案内と言いました。
上下左右に曲がりくねった道なのもそうなんですが、
目的地である下嵯峨屋って2つあるんですよ。
江戸時代の建築様式を今に遺す観光地の下嵯峨屋と
その奥にある実際に宿泊できる宿屋である下嵯峨屋と。
英語では
下嵯峨屋民宿
古い下嵯峨屋小屋
と区別しましたが
これって日本語にもフィードバックできたんですね。
それまで妻籠では、
この2つの建物を区別も曖昧なまま説明していましたから。
とはいえ
観光地の名称と宿屋の名称が同じなことって
日本全国でありますよね。

道案内の話題のタイミングで
重要な英文法を。
道案内では
命令文がよくでてきます。
Go out and go down the slope.
みたいなかたちですね。
道案内では
Could youどころかCan youをつけることすら
冗長です。
Pleaseをつけなくていいの?と心配になるところですが
道案内では命令文にPleaseをつけることはありません。
外へ行け、そして、坂を下りて行け。
ではなく
外へ行って、そして、坂を下りて行って。
というニュアンスなんですね。
ちなみに
英会話で命令文にPleaseをつけないのは
道案内ぐらいです。
もし学校で生徒にPleaseをつけずに命令すると
先生は必ずクビになります、と、
友人のネイティブがよくぼやいてました。
ですから
映画『スクール・オブ・ロック』で
S先生がPleaseをつけずに
生徒たちに命令しまくっているのが
大ウケだったんですね。
ありえないことをしていたからなんです。

こうやって
人に教えるのって
いいですよね。
教えながら
自分も覚えることができる。
自分でもポイントが分かってきます。